正倉院展をスムーズに見るには...@奈良国立博物館

2006/10/29
毎年この時期に行われる正倉院展。奈良国立博物館の周りには長蛇の列ができます。去年は閉館1時間前に行って、スムーズに見ることができましたが、平常展の豊富な仏像コレクションを見る時間がなく、悔いが残りました。今年は、開館時刻に行って、ゆっくりと両方を見ようと考えました。と言いながら、結局、到着が少し遅れて、9時15分。早くも博物館の外周を長蛇の列が囲んでいました。

入場したのは約10分後。思ったよりもすんなり入れました。博物館がまだまだキャパシティがあったおかげでしょう。ところが、ここからは大変でした。ケースの前には人だかりができていました。最前列で見るには相当辛抱しないといけません。警備の人も「すいているところから見てください!」と何度も叫ぶ始末。でもさすが日本人ばかりが見に来ているせいでしょうか、大まかな順路に沿ってみな見ていきます。ということで、混乱の中でスムーズに見るコツが少しわかってきました。

混雑が激しいのは、客の視線が下に向かう巻物です。ガラスケース沿いに行かないと見られないのですが、順路に従って待っていると進むのが遅いため、巻物の前に到達するまでに、説明文を読み終えてしまいます。しかも巻物は漢文で書かれているので、細かい内容まで読むことはほとんどありません。大まかな内容と字の美しさ、印などを見れば、その展示物から発見できることはなくなってしまいます。ですから、ほとんどの人が展示物の中心地点まで進んだところで集中力を切らして、ガラスケースから離れていきます。

ですから、
・展示物に先立って説明文を遠くから読む
・鑑賞客がまばらな展示物の後半部分を先に見る。その展示物が面白ければ、邪魔にならないようにソロソロと少しずつ前にさかのぼっていく
このルールを採用すると、混雑の中でイライラせずに見ることができるのではないかと思います。

肝心の展示物ですが、今回は正倉院の宝物の核となる、聖武天皇の遺愛の品を中心に展示されています。これらの品々が正倉院におさめられて1250年が経つというのです。印象に残ったものを挙げると、
・「国家珍宝帳」:聖武天皇遺愛の品の目録。品の名前、由来、付属品などが丁寧に説明されています。字が端正で美しい!
・「紅牙撥鏤尺」:象牙のものさし。展示品の中で最も鮮やかな紅色。
・「馬鞍」:美術的な価値にについては?ですが、黒柿の木目がとても美しかったです。
・「孔雀文刺繍幡」:刺繍が立体的で、色も鮮やか。1000年以上も前のものとは思えません。

それにしても、他の美術展と違って、なぜこれほど正倉院展は混雑するのでしょうか? 歴史的文物に興味のなさそうなおっちゃん、おばちゃんも多数来ています。展示品も、奈良時代や飛鳥時代、平安時代のものが多く、色あせたものが多いのですが...江戸時代の美術品なら保存状態も良く、美しさをもっと実感することができるのに。本能的に歴史の重みを実感したいということなのかもしれません。

正倉院展の後で、常設展にも行きました。奈良国立博物館の仏像の展示は非常に充実しています。博物館で見る仏像は、お寺で見るのとは違って、一貫性がないため、表情やポーズ、持っているものがまちまち。それがかえって、比較を容易にしていて、国宝が国宝である所以が(素人目にも)あぶり出されて見えてきました。常設展を見る時間があって、よかった!

正倉院展のチケットを見ると、常設展の切り離し部分と別々になっています。
ですから、
・午前中に常設展だけ見る
・お昼から午後にかけて興福寺などをまわる
・夕方に戻ってきて正倉院展を見る

という段取りが、最もスマートな動き方であることがわかりました。もっとも、一日奈良にいる時間がある人に限ります。



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仏像watch@奈良・興福寺

2006/10/29
奈良国立博物館のとなり、興福寺では、正倉院展と時期をほぼ同じくして、年に一度の特別公開が行われます。今年は、北円堂・仮金堂・三重塔・国宝館をセットで(1300円)見ることができます。この日は、正倉院展→奈良国立博物館の常設展と、歴史的文物をシャワーのように見たあと、午後からさらに興福寺を見ることにしました。立派で迫力満点の仏像ばかりで、圧倒されまくりました。

1)三重塔
内側を見ることは非常にまれですが、今回は外側の廊下から中を覗き見ることができました。先日拝見した滋賀県の西明寺や、京都の浄瑠璃寺の三重塔と同じように、極彩色にいくつもの仏像が描かれていました。丁寧な描写、極彩色な色使い…こういう内装を見ていると、昔の仏教の位置づけの高さというか、昔の人たちの信仰の深さを感じます。

2)北円堂
ここの特徴は八角形の建物と、中に立つ立派な仏像たちです。中でも世親・無著菩薩立像は鎌倉時代の仏像の最高傑作と言われます。肩から背中にかけての丸まった感じの写実的な表現と、知的に引き締まった表情が本当に素晴らしい。今の日本人にこのような立派な顔立ちの人間はいるのだろうか、と考えてしまいます。四天王の体も端正に引き締まっています。この体にひかれる女性は多いのではないかと思います。女の子を連れてデートに来ると、しんどいかも。

3)仮金堂
ご本尊の釈迦如来像や、薬王菩薩・薬上菩薩といった、大柄の仏像を拝見することができました。鎌倉時代に造られたというのに、表面の金が未だにはがれ落ちず、できたての頃の金ぴかな姿を予想させるほど。この保存状態の良さはいったい何が原因なのだろうか。

4)国宝館
初めて行きましたが、あまりにも有名な仏像がこれでもかと出てきます。旧山田寺仏頭、美少年の阿修羅像などなど。いずれも歴史の教科書で見たものばかり。息をのむように緊張して拝見しました。今回はプラスαとして、板彫十二神将像がずらっと12体並んでいました。聞き慣れない名前ですが、いずれもインドから渡来した名前を当て字したような感じ。表情も多様で、豪快に「どうだ!」と言っているようなものばかりでなく、しょんぼりしたような顔のものもあったり。


こうやって、奈良国立博物館から興福寺まで(本当は東大寺を含めるともっと凄いんですが)、平安時代から鎌倉時代までのさまざまな仏像を見ていると、仏像と一言で表現しきれないくらい、多様なデザインがあることがよくわかります。そのデザインの違いに気がついて、楽しめるようになれば、仏像ウオッチャーとして楽しくお寺を回ることができるようになるでしょうね。


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2度目の利休忌茶会@大徳寺

2006/10/28
大徳寺の利休忌茶会、週末と重なるのは今年2度目です。前回は何もわからずに行ってしまったのですが、今回は少し勝手が分かるということで、お昼過ぎにゆったりと行きました。

・聚光院
まず向かったのは、聚光院。重要文化財の茶室もありますし、ここでお茶をいただくというのは、何よりの体験になると思うからです。まず驚いたのは、熨斗袋に1,000円を入れてくるお客さんが多かったこと。これがルールだったとは、初耳でした(自分が無知なだけですが... )。緊急避難的な措置として、お懐紙に筆で「御供」と記し、その下に名前を書けばよい、とのことでした。

ほどなくして、末席に入ることができました。重要文化財の茶室「閑隠席」です。本来の広さは、○○○ですが、客間とつなげてなんとか24人入りました。お茶を点てる場所の天井が、客間に比べて一段と低くなっています。

印象に残った茶道具は、烏帽子の形をした備前焼の水差し。黒ずんだ焦げ茶がうっすらと暗い茶室にぴったりでした。掛け軸も、江戸時代に描かれたとは思えない、ポップでモダンな秋の風情たっぷりの絵でした。題材はとんぼとススキ。

待ち合いに方丈の東側が使われていましたが、待っている間に狩野松栄・永徳父子の襖絵(国宝)が見られるのは、なんとも贅沢です。ピカピカに磨き上げられた床も美しいです。

・玉林院
ここの亭主はなんと95歳のおじいさん。カクシャクとしていらっしゃいました。例によって、正客の座を巡って譲り合いが始まると、自分の方を向いて「あなた、男性なんだから、どうですか?」(こういうのは逆差別ちゃうか?と思うが)と水を向けられました。「いやいや、まだまだ未熟ですし、失礼になりますので」と一度お断りしたものの、「全部こちらから説明いたしますので、ぜひ」と退路を断たれてしまいました。こうして自分の正客デビューが思わぬ形で実現しました。

内心、いい経験になるとは思いましたが、やはり大変でした。タイミングを見計らって、あいさつをして、しつらいや道具について質問して、お菓子とお茶をいただいて、立派な茶道具は真っ先にしかも手短に拝見して...目が回る忙しさでした。これを堂々とできるのは大変な知識と余裕が必要なことがわかりました。

ここの茶席で印象に残ったのは、銀の茶釜と、玉林院の門の古材でつくった茶杓です。前者は一部が銀色に光っていましたが、非常に珍しいもののようにお見受けしました。後者は、やや小ぶりで太め、竹ではなく松なので節目がないため、非常に柔らかい印象でした。

今回は茶室を回る時間が必ずしも充分ではなかったため、合計3カ所の席しか回れませんでした。特に、普段は拝観謝絶になっている三玄院に入れなかったのが残念でした。

お茶会に出ると、掛け軸・茶碗・花器・茶杓などなど、骨董的に価値のある道具とそのコーディネートを生で見学できます。それに加えて、周りを見回しながら、茶席でのマナーも少しずつ身につくようになります。スポーツ選手が、練習だけでなく試合に出続けたほうが結果が出やすいように、お茶会に出ることは非常に良い実践の勉強になるものだと痛感しました。


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公家のお茶室は無党派@青蓮院・好文亭

2006/10/22
青蓮院は、江戸時代に皇族の邸宅として使われるなど、皇族との関わりが深い門跡寺院です。春と秋には夜の特別公開で、見事なライトアップを楽しむことができます。その美しさは京都で一番だと思います。この広い庭の一角に茶室「好文亭」があり、普段は見ることができません。平成5年に中核派ゲリラによって焼失された後、平成7年に再建されました。その際に監修にあたった中村昌生先生の授業(伝統未来塾)を、今回受けることができました。中村先生によると、この茶室は、公家らしい茶室だということですが、その特徴とはいったい何でしょうか。

箇条書きにすると、こういう感じです。
・寝殿造のようなアウトライン:中央に4畳半の部屋が3つと水屋があって、その周囲を廊下(入側)が囲んでいます。縁側には柱がなく、桁に使われた見事な丸太が一直線に走ります。
・にじり口はありません。
・書院造よりは茶の湯的演出が多い:違い棚の下に地袋がついていることや、天井が低いこと、長押は丸太にツラをつけた面皮、床の間の壁が土壁であること...etc
・小壁には櫛形の吹き抜けがあって、天井は竿縁天井。ここは数寄屋風。
・床の間の脇に墨蹟窓がついていますが、本来は掛け物を照らすために開けられるのですが、ここではその位置が低いのが特徴的
・周囲の庭は建物と非常によくマッチしています(これを「庭屋一連のごとし」というそうです)。

以下、中村先生のお話です
「公家の茶室は織部好みが基調となっています」(どちらかというと、書院造りに近い感じでしょうか)
「公家たちは茶の湯の文化を非常によく研究しています。知識としてよく吸収した上で、どこかの流派に入るのではなく、それぞれのよいところを取り入れていて、どこか優越したような姿勢です。これは水無瀬神宮の燈心亭にも見られます」
「茶の湯の美学は千家(=家元)の茶だけではありません。公家の世界での茶の美学もあるのです。それは侘び寂びではなく、雅(みやび)と表現できると思います。それはどの流派にも属さない、あくまでニュートラルなものとして存在するのです」
「近衛家煕(このえ・いえひろ)の言行を集録した書『槐記(かいき)』(山科道安著)を読むと、公家の茶の湯を知ることができます」

この茶室の魅力は、公家らしい超然としたところにあるのかな、と思いました。ちなみに、再建にあたってかかった費用はなんと1億3000万円。徹底して材料を選び抜いた数寄屋造りだけに、お値段も超然としていたようです。


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江戸琳派 抱一・其一の粋@細見美術館

2006/10/22
去年、細見美術館に行って、琳派のモダンで洗練された世界に魅せられました。すぐ近くの京都近代美術館で「若沖と江戸絵画展」を見たばっかりでしたし、そのつながりを見てみたいということで、行ってみました。

琳派は、狩野派や土佐派などといった他の日本画の流派が世襲を継承したのとは異なって、その美意識に共鳴した人が手法を受け継ぎ、オリジナリティを加えていきました。そもそも「琳派」というカテゴリーが生まれたのは昭和40年代ですから、当時の画家たちは「受け継ぐ」という発想もそんなに強くなかったのではないでしょうか。

印象に残った作品は、
・酒井抱一「白蓮図」
・鈴木其一「月に葛図」「糸瓜に朝顔図」「朴に尾長鶏図」

いずれも琳派の典型的な絵画です。薄い墨の縁取り、うっすらとした色彩、大胆な構図。ふっくらとした葉、動きのある蔓など、曲線は滑らかで、実際の植物よりも生き生きとしているようにすら見えます。控えめで端正な美しさがすばらしい。若沖の作品はどちらかというと、もっと鮮やかで、もっとモダン。

今回の展覧会のメインとなる、酒井抱一・鈴木其一は、伊藤若冲と同じ江戸時代の末期に活躍しています。鎖国の時代にこのような洗練された絵画が出てきたことは、当時の日本の文化水準の高さ、審美眼の高さを窺い知ることができます。勉強になりました!


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