権威と巡る伝統建築(1)曼殊院

2006/05/27
数寄屋造りから日本の伝統建築を研究されたパイオニア、中村昌生さんが、日本の伝統建築の現場に赴き、お話を伺うという興味深い授業に参加することができました。これがすんごい面白かったです。以下、その講義の抜粋です。

「日本では社寺建築の研究が歴史的にも進んでいましたが、茶室を中心とした数寄屋造りの研究はあまりされてこなかったのが実情です。ところが、あの美しい桂離宮は、社寺建築の理論体系では説明がつかず、茶室の知識がなくては理解ができない。つまり和風建築の基本は数寄屋造りにあると言えるのです。ですから、茶の湯を勉強しなくては、日本の伝統建築を語ることはできない、というわけです」

「第一回の授業に曼殊院を選んだのは、桂離宮に匹敵する美しさがあって、しかも常時拝観ができるからです。茶室の思想が建築物にも現れているのです」

「曼殊院は良尚法親王が設立したとされています。この良尚法親王は、桂離宮をつくった八条宮家の智忠親王の弟にあたります。つまり、桂離宮のDNAがかなり入っているわけです。曼殊院の大書院から小書院へとつながる建物の配列は「雁行(がんこう)状」になっていて、これは桂離宮と同じ形式です。大書院の廊下から小書院への眺めが実に美しいです。

「ほぼ同じ時代に建設された建物として二条城が挙げられます。二条城は当時の権力者(徳川家)が造ったものですが、威圧的なデザイン・構造になっているのに対し、桂離宮は穏やかで簡素。自然と庭と建物が一体化しています。これは平安時代に発展した寝殿造と思想的に似ているのです」

「曼殊院も二条城と同じ書院造りの建物ですが、床柱(杉の丸太)や天井、釘隠(富士山の形の七宝焼)などに、重々しくならないような配慮がされています。屋根や天井が低く見えるような配慮もされています。これも建物を権威的に見せないための仕掛けです。これらには施主(良尚法親王)の意向がかなり反映されているようです。

「長押から天井までの壁を小壁と呼びますが、ここをどうデザインするか、それが日本建築なのです」


曼殊院見学の裏技として、お寺の係の方にお願いして、特別拝観料1000円を払えば、茶室(八窓の席)を拝観することができます。ここの茶室は桂離宮の松琴亭に似た造りになっているということですが、入ってみると非常に雰囲気のあるいいお茶室でした。本当に八つ窓がありました。

「茶室で最も難しいのは窓の配置です。ルールが決まっていないから、施主の創意が見事に反映されます。ここの窓の特徴は数が多いこと。点前座の風炉先にある下地窓と色紙窓の配置や、にじり口の左側の下地窓と連子窓(れんじまど)の配置は小堀遠州好みです。窓には機能性があるわけではなく、見た目の変化を味わうようになっています」

「八窓の席のもう一つの特徴は、にじり口の正面にある床の間の天井が極めて高いことです。長い掛け物が掛けられます。点前座の前に上下に棚がついていますが、これは雲雀棚(ひばりだな)と言って、古田織部が考案したものです。平天井と屋根裏の天井の構成も織部的。屋根裏の垂木は、皮付丸太や小丸太が織り交ぜられていますが、こうした配慮は貴族好みですね。

「今の建築の世界では、鎌倉時代から日本で継承されてきた規矩術を全く教えないまま、建築士の資格を取ることができます。それでは、日本が誇るべき建築文化は廃れてしまうのではないか。ソフトを継承する人を育てたいですね」


今までお寺に行っても、漫然と眺めては「ああ、ここはいいなぁ」と感覚的にとらえていた部分が多かったのですが、こうして講義を受けることで、そのパーツの意味が理解できて、全体もしっかりととらえることができる。そうすると、自分がいいなと思っていたことが、どういう特徴なのかがわかります。今後もシリーズで参加していきたい授業でした。


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Comment
桂離宮 裏技で検索してきました。ブログを拝見してすぐに曼殊院へ電話して予約しました。
ありがとうございます♪

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